「Free to Play + アプリ内課金」が一般的なゲームアプリでは、例えば税務上の耐用年数は3年・5年のどちらを選択すべきか、アプリの制作費は試験研究費の税額控除が適用可能なのか等、現行の規定上からはその取扱いが不明確なものがいくつか存在します。その原因は、ゲームの販売形態が従来のDVDやCD-ROMといった物理的なソフトウェアの販売方法から、インターネットを通じてソフトウェアをダウンロードするデジタル販売に移行しているものの、税法がその時代の変化についていけていないためです。また数多にリリースされるゲームアプリの中でヒットするアプリは一握りといわれ、大半のゲームアプリはリリースから短期間でサービス終了に追い込まれる現状を考慮すれば、耐用年数が3年であっても長い(ビジネスの実態に合っていない)という話も伺います。
このような現状に関して、税研(2019年5月号 No.205)に「ゲームアプリ製作費の税務上の法定耐用年数について」というタイトルの記事が載っておりましたので、少し触れたいと思います。記事の詳細な内容については、雑誌をご覧ください。
税研 No.205;
企業会計上の耐用年数の取扱い
ソフトウェアに関する企業会計基準としては、企業会計審議会より平成10年3月13日に公表された「研究開発等に係る会計基準の設定に関する意見書」等があり、さらに意見書の具体的な指針として、平成11年3月13日に「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」、平成11年9月29日に「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」が発表され、ソフトウェアの会計処理もこれらに従って行われております。また耐用年数は、一般的に以下の方法が採用されております。
本記事によると、会計上のゲームアプリの製作費は「自社利用目的のソフトウェア」として「社内における利用可能期間に基づく定額法」を採用している企業が多く、耐用年数は「2年」を選択した企業が多数のようです。
私が知る限り、企業によって採用する耐用年数には幅があり、例えば保守的な企業は即時償却を採用している企業もあります。いずれにしても、アプリゲーム市場は技術の進化、新しいサービスの普及、及び移り変わりが激しい消費者の嗜好など、同一タイトルのサービス期間が5年も継続するケースは稀であることが理由です。
税務上の耐用年数の取扱い
税務上の減価償却の基本的な考え方も企業会計原則に基づくものの、企業の見込に基づいた減価償却方法と対応年数を採用することができず、税務上ゲームアプリ製作費をソフトウェアとして計上すべき場合、以下の区分から耐用年数を選択しなければなりません。
本記事によるアンケート集計では、償却方法は「定額法」、耐用年数は「5年」を選択する企業が多数派のようです。その理由としては、ゲームアプリはインターネットからダウンロードするデジタル販売であり、伝統的なDVDやCD-ROMなどの物理的な販売方法ではないため「複写して販売するための原本」の「複写」には該当せず、また税務調査での指摘リスクを回避するために保守的な選択ということでした。
ゲーム市場の特性に鑑みると、5年は長すぎるという意見がございます(3年でも長いという意見もよく聞きますが)。
例えば、視覚化されるものではありませんが、マスターのアプリの原本がサーバー上で1アプリ毎に複写されユーザーに配信されているという概念で整理した場合、上記の「複写」に該当するのではないかという意見があります。また「販売」に着目すると、「Free to Play + アプリ内課金」の収益はサービスの対価であるため耐用年数3年に該当しないが、売り切りのゲームアプリの場合は販売に該当するため耐用年数3年に該当するのではという意見もあります。加えて物理的なゲームソフトであっても、販売して終了ではなくインターネットを利用したオンラインサービス(アップデート、追加コンテンツ、オンライン対戦など)を考慮すると、物理的なソフトとデジタルソフトの違いは流通手法や収益化手法の違いなどであって、サービスの点でいえば両者の間に本質的な違いは無いと思われますが、税務上は明確になっていないというのが実情です。
本記事の中で提言として述べられていますが、ゲームアプリ制作費に限らず、実際のビジネスの世界ではこれまで以上に早いスピードで新しい産業や資産の創出が続くと予想されますので、ビジネスの実態にあった税務上の取扱がクイックに明確化されていくことを期待します。
税理士 三木孝夫