最近、大手グローバル企業の税務部長の方が移転価格対応に関して記載された記事を拝見する機会がありました。
独立前のキャリアの大半が事業会社の税務部門出身の筆者にとっても、事業部門との折衝での苦労や指摘コメント、また税務部門の取り組みに否定的だった人が議論を重ねていく中で強力な味方になり、その後に移転価格リスクの軽減のアクションが取れたときの喜びなど、同感する内容がいっぱいでした。
取引価格(値決めルール)の妥当性
記事の中でも触れられていましたが、移転価格税制対策を検討するにあたって最初の関門は「税務マターのためにグループ会社間での利益配分を変える(値決めを変える)」ことへの抵抗です。
移転価格ポリシーを検討するにあたっては、「税務マターで値決めを変えるという発想は、ビジネスを理解していない」というようなコメントを現在まで数多く頂きました。
ただ私がいつも思うことは、「なぜ今の値決めルールが正しいと言えるのか」ということです。例えば業績評価なども相まって、暗黙の中で現在の値決めルールが正しいという前提になっているだけでは?、と思っています。
そういった場合には、率直に「なぜ今の値決めルールが正しいと言えるのか教えてください」とお伺いするようにしています。このようなご質問をすると、「昔からこれでやってきたから」、「同業他社の現地子会社の利益率もこれくらいだから」(独立企業ではない現地子会社と比較は、移転価格上の正当性の材料にならず)など、ほとんどのケースは明確な回答が出てこないのが現実だと思っております。
その一方で、「値決めをTNMMに準じたルールに変更すると、現地の利益が保証されるため、現地のコスト意識が低下する」などの意見も必ずと言っていいほど上がります。それはそのようなリスクがあると認識はしていますが、残念ながら全ての問題を一度に解決する万能な方法は無いと思っております。
一度、現在の値決めルールをゼロベースで検討してみた上で、グループの移転価格リスクを少しでも低減させるために、一歩づつ対応していくことによって社内での移転価格の認識も徐々に高まり、次の一歩に繋がると考えています。
税理士 三木 孝夫